問題は川勝前知事ではない…静岡県知事が交代しても「2027年リニア開通」は無理筋と言える3つの理由【篁五郎】
◾️②「残土処理」も地域の合意が得られていない
トンネルを掘り続けることで起きる問題は他にもある。それは残土処理だ。長野県下伊那郡阿智村は、リニアのトンネル工事で発生する残土を活用して開発を検討する上中関地区の「七久里候補地」を巡り、住民の生活に支障が出ているという。
昼神温泉郷を通る国道256号線を南木曽町や清内路地区から残土を搬入したダンプが通るため智昼神観光局の白沢裕次社長は「観光地に多くのダンプカーが通るリスクをどう軽減するのか議論する必要がある」と指摘した。
長野県では974万立方メートルの残土が排出される予定で、処分には数十の候補地があがっている。豊丘村の小園地区、松川町の生田区でも反対の声が起こっている。
豊丘村には1961年6月(昭和36年)に発生した集中豪雨災害の「三六災害」での被害が記憶に残っている。当時の災害では、豊丘村を含む伊那谷全体で犠牲者136人を出した。遺族はJR東海の「安全に管理する」との説明に違和感を覚えたという。その後、住民は土砂災害の勉強を重ね、「上流での残土埋め立ては危険」との認識で一致。反対になったという。
松川地区もそうだ。松川町の生田区は、2014年に約30万立方メートルの残土埋立てが可能な谷あいの土地「丸ボッキ」が候補地としてあがった。しかし住民は「三六災害」を覚えており、「福与地区リニア工事対策委員会」を結成。2016年に受け入れ反対の意見書を提出した。そのため「丸ボッキ」の埋め立ては止まったままなのだ。
残土処理問題は隣の岐阜県でも発生している。岐阜県御嵩町では、土処分場受け入れの是非をめぐり審議会が開かれている。当初は「健全土」だけの計画だったが、JR東海は「有害残土」持ち込みを打診した。当時の渡邊公夫町長は一旦拒否したが「受け入れを前提として協議に入りたい」と態度を一転させ、混乱が起きてしまった。最終的には審議会が自然由来の有害な重金属が含まれる残土は町有地への搬入を認めず、それ以外の残土の受け入れはやむをえないとする意見と反対の意見を併記して町長の判断に委ねることになった。JR東海側が、残土処理要請の内容を変更しなければ起きなかった問題であろう。